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2009年06月03日

原点を知る

夫の実家にはあかずの間があります。
開かずの間とは夫の部屋のことでして、
息子がまだいたずら盛りの1歳児くらいまでは、
息子とわたくしも出入り禁止でしたが、
いつの間にか息子には入室許可が出て、
わたくしは相変わらず出入り禁止の状況です。
常に中から鍵がかかっているので、未だに足を踏み入れたことがございません。
息子と夫が開かずの間にいる時は、
時折うふふあははと楽しそうな声が扉の向こうからしてきます。
そんな声を聞きながら、わたくしはアウェーで新聞を読みふけるのです。
実家で鍵をかけて自室に篭られたら、こっちはどうすればいいのかと。
そんな実家へ行った時のことです。
夜、息子も寝つき、夫はいつものように開かずの間に篭っています。
暇です。
とても暇です。
我慢できずに夫の部屋をノックします。
するとわずか5cmだけ扉が開きました。
そこですかさずわたくしが鼻先を突っ込み、
「すみませんが何か漫画を貸していただけませんか?
 できれば諸星大二郎的なものがいいのですが」
と、至極丁寧にお願いしました。
すると一旦扉を閉められ、
次に開いた時には5cmの隙間から本が差し出されました。
子連れ狼でした。
本が手渡されるとすぐに扉は閉まり、鍵がかけられました。
手元に残された子連れ狼の表紙を見て、
「全然諸星じゃないじゃん」と思いながらもページをめくり始めました。
一気に読み終わりました。
面白い。
何だこの面白さは。
こんな傑作だったことを知らずにいたとは。
設定の陰鬱さと劇画のベタがこんなに合うものなのかと。
TVで観るよりも漫画を読んだ方が断然いいと思いました。
小島剛夕ってすごいわ。
そういえば息子が生まれた時に、
「木でできた乳母車が欲しい」とか言ってたような気がします。
夫の一人称は拝一刀と同じ「わし」です。
家族全員子連れ狼のオープニング曲を新旧ともに歌えます。
単行本に、
「いつの時代にも父子の絆を問う不朽の名作」
というようなコピーが書かれていましたが、
夫の原点と理想の父子像がここにありました。
翌朝。
夫に「面白かったので続きが読ませろ」と要求すると、
「この本しか持っていない」と言われました。
物語の真ん中しか読んでないので話の前後関係がさっぱりわかりません。
だけど読みたくてたまらず、
これじゃあ単なるチラ見じゃんと身悶えながら
「子連れ狼ファンなのに何で持ってないのだ」と食って掛かると、
「震災で全部なくなった」
とポツリ。
そんな悲しい事実を言われたら、わたくしが買うしかないじゃありませんか。
むしろ買えってことかしら。
すると夫が言いました。
「買ってくれるなら文庫本じゃなくてハードカバーの豪華版がいい」
だったら自分で買ってください。